むかしむかしのお話です。
大きな国のお城に住むお姫様は、外の街の暮らしがうらやましくて仕方がありませんでした。
ある日どうしても街にいきたい気持がおさえきれなくて、そばにいた小間使いのむすめに頼みました。
この女の子は、とおくから見るととてもお姫様に似ていました。
「ねえ、わたしのかわりにお姫様になってちょうだい」
「わたしが?お姫様になってもよろしいのですか?」
小間使いは喜んでお姫様の身代わりになりました。
むすめはそうじばかりしているのがいやで、お姫様の暮らしにあこがれていました。
今までお城で忙しく働いていたので、小間使いのむすめはお姫様になれるととても幸せでした。
しかし、大臣がたくさんの勉強の本をもってきて、その本を読んでりっぱな先生のお話をなんじかんも座ってきかなければならないと知って驚きました。
「まあ、お姫様になると、こんなにたくさんの勉強があるなんて!」
お姫様のつとめは小間使いのむすめが考えているよりよっぽどたいへんでした。
それにしばらくすると、すばらしいドレスやきれいな指輪をつけるのもあきてしまいました。
「わたし、もうお姫様いやだわ」
自分に似たむすめを街でさがして見つけると、部屋によびました。
そのむすめは喜んでお姫様の身代わりになりたいといいました。
2人目のお姫様は、自分が教えてもらったとおりに、お姫様のつとめを教えました。
そしてすこしのあいだお姫様になれたことに感謝して、お城からでていきました。
3人目のお姫様は、おいしいとひょうばんの高いパン屋のむすめでした。
だから、パンを焼くのがとても上手でした。
どんなパンがでてくるのか楽しみにしていたら、まるくて味のないふつうのパンでした。
それからずっとお姫さまになってからの食事は、いつも似たようなパンなので、あきてしまいました。
「ああ、わたしの家のパンがなつかしい。自分でパンを焼きたいわ!」
でも、そういっても大臣は、許してくれませんでした。
「姫がパンなど焼くなどとんでもない。職人がつくって、それをお姫様が召しあがる、それでよいのです」
それでもやはりパンのふかふかした生地をこねたくて、パンを焼くためにお姫様をやめることにしました。
お姫様は街で自分に似たむすめを見つけると、さっさと実家のパン屋にかえっていきました。
こんどの身代わりのむすめ――いいえ、4人目のお姫様は、花屋の女の子でした。
お城の花がいっぱい植えてある花壇をみてたいへん喜びました。
さっそくお水やりをして、種もうえてみたくなりました。
でも、大臣は、お姫様の白い手があれては一大事ですと、土をさわって花を育てることを許してくれません。
「花を育てることができない人生なんて、たえられませんわ!」
自分によく似ているむすめを見つけると、風にはこばれてくる花びらのようにしずかにお城をでていきました。
5人目のお姫様は、お針子さんでした。
お姫様がきるような美しい服をまいにちのように縫っていました。
ああ、作るばかりでなくて、わたしもドレスを着てみたい――。
そんなふうにかんがえているところにお姫さまがやってきて、わたしのかわりになりませんかとききました。
お針子はよろこんで姫の身代わりになりました。
でもまいにちたくさんのドレスを着ていると、ああ、わたしだったらこう作るのに、と服を作る気持ちがおさえきれなくなりました。
布を用意して、ドレスを作ろうとすると大臣はいいました。
「針仕事など、お姫さまがしなくとも小間使いの仕事です。ましてご自分で服を作るなどとんでもない」
「美しい服を着るよりも、作るほうがよっぽど楽しいのに!」
ドレスを一着も作らせてもらないので、5人目のお姫様もこの暮らしがいやになりました。
自分にそっくりの娘を見つけて、6人目のお姫様になってもらいました。
(ないしょなのですが、お城をでるとき、上等な布をいちまいもらっていきました)
6番目のお姫様は、本をよむのが好きな本屋のむすめでした。
お城にとうちゃくするとたくさんの本があったので、それはとても喜びました。
2番目のお姫さまも読んだ勉強の本と、読んだことのない物語の本、どちらも楽しみにしておりました。
ある日、おもしろい物語の本を見つけたので夢中で読んでいると、大臣に取り上げられてしまいました。
「お姫様は、きょうようになるむずかしい本だけよむべきです」
「ああ、すきな本をすきなだけ読みたい!」
街で身代わりのむすめを探して、ようやく城からでて、すきな本を読めるくらしにもどりました。
かわりとしてお姫様になったむすめは、6人目のお姫様に教えてもらわなくてもすべてお城のことをしっていました。
7人目のお姫様は、最初に身代わりをたのんだほんとうのお姫様でした。
街でいろいろなことを経験して、楽しい思い出をつくってお城へかえってきました。
「たくさんの仕事をやってみて、どれも楽しくて、どれもたいへんだったわ。わたしは、ここでお姫様としてがんばりましょう」
それからは自分の身代わりを探そうはしませんでした。
――と、おもいますか?
またこっそりお姫様は城からでかけるために身代わりになる人をさがしています。
8人目のお姫様はあなたかもしれません。