赤い靴

赤い靴のブローチ



カーレンはおどりつづけました。いえ、おどらなければなりませんでした。

暗い夜のなかを、おどって行きました。

くつは、いばらだろうが、切株だろうが、どこまでもおかまいなしに、カーレンをひっぱって行きました。

そのため、手足がひっかかれて、血が出ました。

こうして、いつのまにか、荒れ野の上をおどって行って、とある一軒の、さびしい家の前にきました。

この家には、首切り役人が住んでいることを、カーレンは知っていました。

カーレンは指で窓をたたいて、なんどもいいました。

「出てきてください!--出てきてください!---わたしは、はいって行けないんです。おどっていなければならないんです!」

『アンデルセン童話集』大畑末吉 訳 P.132より

「どうか、わたしの首は切らないでください!」とカーレンはいいました。

「でないと、罪をざんげすることができなくなりますもの! そのかわり、どうぞ、この赤いくつごと、わたしの足を切ってください!」

そしてカーレンは、罪をすっかり告白しました。

そこで、首切り役人は、赤いくつごとカーレンの両足を切り落としました。

すると、そのくつは、畑を超えて、ふかい森のなかへ、おどって行ってしまいました。

『アンデルセン童話集』P.133より



ジュエリーボックスにしまっている貴金属のなかでもっとも華やかな魅力を放つ赤い靴の形をしたブローチ。

これをたくさんのアクセサリーのなかで見つけた時、あっカーレンがはいていた靴だ、と直感的にそう感じました。

色も形も、おしゃれにリボンがついているところもお話のイメージどおりだったからです。

アンデルセンの童話のなかで幼子頃に唯一恐ろしいと感じていた物語が赤い靴です。

靴の誘惑にさからえず大切な人を裏切ってしまったカーレンはおどることをやめられない罰を受けます。

じつはわたしは子供のころカーレンがそれほど悪いことをしたように感じられませんでした。

『どうしても好きな靴を履きたい』という願いは女の子らしいごく自然な欲求に思えたので、読むたびにカーレンがかわいそうに思えてなりませんでした。

本当はカーレンの罪は赤い靴を履いたことというより、引き取って育ててくれたおばあさんよりも靴を愛してしまったこと。

この物語がトラウマになり靴屋で親に赤い色の靴をねだることは一度もありませんでしたが、大人になった今、このブローチをつけて赤い靴を楽しんでいます。

足を切られるという残酷な面もありますが、最後に救いの道が開かれている描写が大変美しく、アンデルセンの素晴らしい代表作だとおもいます。

このブローチを胸元につけるとカーレンを思い出し悲しみに浸りながら踊りたくなります。

小さなアクセサリーにもかかわらず大きな存在感があります。

日本の童謡の『赤い靴』も寂し気な歌詞とメロディで、この童話とどこか共通しているものを感じます。

赤は血の色、薔薇の色、唇の色、紅玉の色、火の色。そして罪の色。

カーレンの美しい靴の色。