「あたしはきれい好きでね」
魔女は言い、結んだへびをたわしがわりにして大鍋でこすってから、自分の胸をざっくり切って、鍋のなかに黒い血をしたたらせました。
世にもおそろしい形の湯気が立ちのぼり、魔女はそこに次々と、何か新しいものを投げ込みつづけます。
沸騰すると、ワニの鳴き声のような音がしました。が、とうとうできあがった薬は、澄んだ水のようでした。
「さあ、持っておいき」魔女は言い、小さい人魚の舌を切り落としましたので、人魚はいまや声を失い、歌うことも話すこともできなくなりました。
「帰り道に、もし森でイソギンチャクがおまえを捕まえようとしたら、」魔女が言いました。
「その飲み物を一滴ふりかけてやるといいよ。そうすれば、やつらの腕も指も、無数に枝分かれしていくから」
けれど、小さな人魚はそれをする必要がありませんでした。
彼女の手のなかで星みたいに光っている、きらきらした飲み薬を見ると、イソギンチャクたちはおそれおののいて、みんなあとずさりしたからです。
こうして、お姫さまはたいした時間をかけずに森をぬけ、沼地をぬけ、荒々しい渦巻きをぬけました。
『アンデルセンのおはなし』 小さな人魚53、54頁
ハンス・クリスチャン・アンデルセン/著
エドワード・アーディゾーニ/選・絵 江国香織/訳
何十年もの昔職人さんの手によって削られ彫られた手作りのものです。
王子さまのいる宮殿の、立派な大理石の階段についたときには、日はまだのぼっていませんでした。
月があかるくみずみずしく輝いています。人魚は、焼けつくような、身を切るような飲み薬を飲みほしました。
まるで、両刃の剣で繊細な体をつらぬかれるような、あまりの痛みに人魚はたちまち気を失い、死人のように倒れました。
『アンデルセンのおはなし』小さな人魚 54、55頁
ハンス・クリスチャン・アンデルセン/著
エドワード・アーディゾーニ/選・絵 江国香織/訳 古いもののためか、残念ながら蓋は現在あかなくなっています。
さて、これでわたしのおとぎ話の雑貨のお話はいったんおしまいです。