かくれんぼ



お天気のよいある日、田舎の村の広場でこどもたちが遊ぶ約束をしました。

「かくれんぼするもの、よっといで」
かわいい女の子のブランシェがよぶと、元気な男の子のシェルがものすごいはやさでかけてきました。
ふたりは幼馴染でとてもなかがよいお友達でした。

「きょうは、わたしがおによ。10かぞえるから、シェルはかくれてね」
「うん。ぼくはかくれているから、見つけにきてね」
シェルはあたりをみまわすとみなれないものを見つけました。
「あ、からだをかくしてくれるちょうどいい場所があるぞ」

そこには手車があり、その上にはわらと、じゃがいもやにんじんなどの野菜がたくさんおいてあります。
わらの下にからだをもぐりこませると、足も手もひっこめて身をひそめました。
気持ちのよいくさのにおいがしてきます。
「ここならなかなかみつけられないぞ」

お日様の位置がだいぶかわりましたがブランシェはなかなかさがしにこないので、シェルはすっかり眠くなってしまいました。
気持ちのよいあたたかさに、いつしか、野菜に囲まれながらわらのなかで眠りこんでしまいました。
「シェルったらどこにくかくれたのかしら」
ブランシェは草陰や動物たちの背後を探していましたが、シェルがどこにも見つからないので、めいっぱいのおおきな声でよびました。
「シェルー。どこにかくれたのー。もうでてきてー」

その声をきいて村いちばんの広い畑をもつおじいさんが笑いました。
「やれ、元気のいいことだ。けっこうけっこう」
そしていつものように王様のところへ野菜をとどけなければと、台車をよっこらせっと持ち上げました。
「おや。いつもよりおもいようだ」
ええ、だって、農家のおじさんは、まさか男の子がかくれているなんて夢にもおもいませんでした。

「きっと野菜がみなおおきく育ったからだろう。王さまやお妃さま、城の人々に喜んでもらえるにちがいない」

おじいさんは、車をひっぱって村をでて、どんどんすすんでいきました。
おひさまがしずむころ、お城につきました。
そして、わらと、わらのなかにはいって眠っているシェルと、まるまるとした野菜が、下ろされ、調理場へ運ばれていきました。

目をさましたシェルは、見たこともないおいしそうなスープがならんでいるので、つばをのみこみました。
そして一皿たべてしまいました。
コック長がからっぽの皿をみつけ、食べてしまった犯人をさがそうとしました。

コック全員で探すと、まんなかのテーブルの下に、みなれないこどもの男の子がかくれていて、みんなおどろきました。
シェルは食べてしまった料理のことをあやまると、おわびにお皿を洗ったりしました。
次の日にはもう帰りなさい、とコック長にいわれました。その夜は調理場にとまらせてもらいました。

でも次の日、シェルはおいしそうな匂いで目をさますと、焼きたてのパンやサラダがおいてありました。
おいしい料理がまだ食べ足りなかったので、シェルは次の日にまたテーブルにかくれて二皿の料理をたべました。
犯人をさがすと、テーブルの下にシェルがかくれていました。
「おい、こぞう、またおまえか」
「はい。すごくおいしそうだったから!」
またまた食べてしまった料理のことをあやまると、今度もおわびに、お皿を洗って、野菜をむいたりしました。

次の日も、美味しそうなお肉料理と、魚料理や、デザート、素晴らしいごちそうが料理されていくのを見て、シェルはがまんができませんでした。
シェルはまたテーブルの下にかくれて三皿の料理をたべました。
またまたまた食べてしまった料理のことをあやまると、おわびにお皿を洗って、野菜をむいて、調理場のそうじをして、
ぴかぴかにしました。
料理長がたずねました。
「おまえ、ここの料理がそんなに好きなのかい」
「うん、大好き!」
シェルは明るくこたえました。
それをきいた料理長は、この男の子をここに住まわせることにしました。
シェルは、素直で、美味しい料理はとてもおいしそうに食べ、食べたあとはとてもよく働く子どもでした。
コック長はもちろん、コックの見習いも、城の誰もがずっと前からシェルがいたかのように、この男の子を愛しました。

それから7年たちました。

シェルはいちにんまえのコックになっておりました。
今ではたくさんの野菜をじょうずにきって、すばらしいごちそうにかえることができました。

ある日、コック長に数日のあいだ家にかえりたいと願うと、ふるさとの家にむかいました。
みんなどんな顔をするかな、と考えながら家の扉をたたきました。
するとなかから、ブランシェがでてきました。
シェルがいなくなってから元気がなくなっていた母親の世話をしてくれていました。
「どなたでしょうか」
ブランシェはマントとぼうしで身をかくしてあまり顔が見えなかったのでシェルだとわかりませんでした。
シェルははじめて会ったばかりのふりをして言いました。
「わたしはお城で働いているコックです。料理の修行で旅をしています。今晩とめていただけないでしょうか。そのかわりたくさんのばんさんをおつくりしましょう」
ブランシェと母親はよろこんで旅人をまねきいれました。
「わたしたちは女ふたりで、満足なおもてなしもできませんが、どうぞおとまりください」

シェルはコック服に着替えると、いつものようにさっそく料理をつくりはじめました。
数時間たつと、夢のように素晴らしいごちそうがでてきました。
「なんておいしい料理かしら。シェルにも食べさせてあげたかったわ」
息子がいないことをなげき悲しんで母親は涙をながしました。
ふたりはお礼をいおうと、コックをよぶと、その男はコックぼうしをかぶって顔をかくしていました。
どことなくなつかしい人のような気がして、ブランシェはコックぼうしをとりました。

なんという驚きでしょう。コックぼうしからあらわれた人―ーそこにいたのは、大好きなきえた幼馴染でした。

「まあ。こんなところにかくれていたのね」
ブランシェは昔とかわらない笑顔で、言いました。

「シェル、みーつけた」
「ブランシェ、やっと見つけてくれたね」

7年前かくれんぼをしたままいなくなってしまったので、村のみんなはシェルがもう生きてはいないのではないかとずっと心配していました。

けれど母親とブランシェだけはいつまでもシェルがどこかで生きていることを信じていました。
それからシェルは何があったかふたりに説明すると、もういちどお城にいき、コック長に許しをもらうと、故郷にかえらせてもらえることになりました。

まいにち村のひとびとや母やブランシェにおいしい料理をたっぷりふるまいましたとさ。


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