白鳥とパン売り娘

白鳥とパン売り娘



のどかな農村にシュナという娘がおりました。

パン屋のアンナおばさんのもとですみこみで働いていましたが、おばさんはひどく冷たい人で、

朝から晩まで働かされて、おやすみもなしで、しかもごはんはほんの少ししかくれませんでした。

ある日の夕方パンがたくさん売れ残ったので、おばさんはふきげんな声で言いました。

「いいかい、パンをすべて売るまで帰ってきてはいけないよ。全部金にかえてくるんだ。

ごまかして食べるなんてぜったいにだめだからね」

ぜんぶ売ることなんてむずかしいです、とシュナは言いたかったのですが、口ごたえはよけいしかられるので

「わかりました」

とだけこたえて、パンを入れたバスケットをもって出発しました。


街へつくとひたすら歩き回って、声をはりあげながらパンはいりませんかと道行く人に声をかけました。

けれど売れたのはわずか数個で、まだバスケットのなかにはいっぱいパンがのこっていました。

疲れきったシュナはどこか湖か川で喉をうるおそうと思い、パンを持って歩きはじめました。


街はずれの小さな森の湖へつくと、もう陽はとっぷりと暮れてあたりは真っ暗になっていました。

きれいでとうめいな湖の水を両手ですくって口をつけてごくごく飲みました。

とてもおなかがすいていたため、いちどでは足りずなんどもなんども飲みました。

ようやくおなかいっぱいになるほど飲み終わると、たくさんの鳥たちがこちらを見ていることにきがつきました。

目の前には湖のうえををおどるように美しい12羽の白鳥と1羽の黒鳥が優雅に泳いでいました。

白鳥たちはおなかがすいているようで、シュナは自分でも食べようと思わなかったパンをちぎってなげてあげました。

帰ったらおばさんにしかられるだろうと思うと悲しくなり、今にも涙があふれでそうでした。

白鳥たちはパンをひとつのこらず食べ終わるとみな湖のなかへもぐりました。

しばらくしてまた湖面に姿をあらわすと、みんながシュナのところへやってきました。

そしてシュナの手を月色のくちばしでつんつんとやさしくつつきました。

なんだろうと思って手を差し出すと、くちばしからことっとなにかはきだしてきらきらしたちいさなものを置きました。

両手にはいったグリーンやブルー、レッドのちいさな光は、今まさに夜空でかがやいている星のまたたきのようでした。

「まあ、これ、もしかして宝石ではないのかしら」

なんと白鳥たちは宝石のかけらを湖の底からひろってきたのです。

白鳥12羽が1粒ずつ持ってきたのでかけらは全部で12粒ありました。

しかし黒鳥だけは宝石を持ってくることはなく湖の奥で遠くを見つめているだけでした。


持って帰るとおばさんはこれはもうけものだと大喜びで宝石をうけとりながめました。

そして次の日も売れ残ったパンをもたせ言いました。

「さあきょうも街にパンを売りに行くんだ。もしひとつでも売れ残ったら帰ってきても家にいれないよ」

とぼとぼつかれた足で街に持って行って売ろうとがんばりましたが、やはりパンは売れ残ってしまいました。

しかたなくあの湖に行くと白鳥たちはすぐよってきてシュナの手からちょくせつパンを食べました。

そしてまた宝石のかけらを拾ってきてシュナの手に置いて行きました。


それから毎夜売れ残ったパンは湖の白鳥たちにあげました。

白鳥たちは食事のあとには宝石のかけらをいつもシュナの手にそっとわたしました

きらめくかけらはパン作りでまめだらけのシュナの小さな両手のなかを宇宙の星にようにてらしました。

けれど黒鳥だけは、パンを食べ終わってもいつも知らんぷりで、いちども宝石を持ってくることはありませんでした。


そんな夜が一週間も過ぎたころでした。

毎夜宝石のかけらを持って帰るシュナをあやしんで、アンナおばさんはこっそりあとをつけていくことにしました。

そしてシュナが森の湖で白鳥にパンをあげていて、その鳥たちから宝石をもらっていることを知りました。

それならば自分もあの白鳥にパンを食べさせ、宝石をたっぷりもらおうと考えました。

おばさんはその夜眠ることもせず一晩かけてたくさんのパンを焼きました。

けれどそれはあまった古い材料をまぜあわせて作った、ちっともおいしくないパンでした。


おばさんはその日の夕方「シュナ、今夜は留守番をしといてくれ。あたしは大事な用事があるから出かけてくるよ」

と言って、パンを木車にのせて湖へはこんでいき、シュナを待っていた白鳥たちに命令するような口ぶりで言いました。

「さあお食べ。知ってるんだ。シュナからあまったパンをもらって食べてるんだろう。

今夜はあたし直々にわけてやる、あんたたちにはもったいないほどの食べ物だ」

おばさんは白鳥たちのまえにパンをやまほどおきました。

けれどへんな味がしたのでほんの少しつついただけで、みなほとんど残したままでした。

おばさんは白鳥がパンを思うように食べなかったのでいらいらして叫びました。

「はやく宝石を持ってきておくれよ」
白鳥は動かないままでしたが、やがて黒鳥がとぷんと音をたて湖に潜りました。

しばらくして湖面に姿をあらわすと、街の人が誰もみたこともないような大きな宝石の首飾りをもってきました。

金の台座に青い巨大な玉石が連なっていて、まるで女王様のための首飾りのようじゃないかとおばさんは思いました。

「これ、これ、これを待っていたんだ、さあ、かけておくれ」

おばさんは喜んで湖にむずからの首を差し出しました。

黒鳥から首飾りをかけてもらもらったその瞬間、おばさんはさけびました。

「ぎゃっ」

首にかけられたものは、じつは宝石ではなく、派手な色をぬっただけのなんのへんてつもないただの石でした。

首がおれるかと思うほどずしりと重いので、首が持ちあがらず湖に全身がかたむきぼちゃんと湖のなかへ落ちました。

おばさんは水中で石の首飾りをはずせず沈んでいき、それっきり浮かんできませんでした。

その様子をしずかにみとどけると12羽の白鳥と1羽の黒鳥はどこか空のかなたへ飛んでいきました。


シュナはおばさんがどこに行ったか知らないまま、毎日2人ぶんの食事を用意して帰りを待っていました。

けれどいくら待ってもアンナおばさんがパン屋にかえってこないので、シュナはおばさんのパン屋を引き継ぐことになりました。

アンナおばさんのパンよりおいしいと評判になり、結婚もして、パン屋のおかみさんとして末永く幸せに暮らしましたとさ。





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