真夏の夜の夢
暑くて寝苦しい夏の夜のことです。
ベッドでふと目覚めた少女はへやに誰かいることにきがつきました。
「そこにいるのはだあれ?」
蝋燭であたりをてらすと雪のようにまっしろなしろくまのぬいぐるみがそばにいました。
「ぼくといっしょにおどろうよ」
しろくまがゆっくり手を差し出しました。
どこからか軽やかなオルゴールが鳴りはじめ、不思議なダンスがはじまりました。
一晩じゅう少女としろくまはおどりつづけました。
「とっても楽しい。ずっとこうして踊っていたい」
「ぼくもそうさ。でももう行かなくちゃ」
「行くってどこへ?」
そのといには答えないまま、その時はじめてしろくまは少女に笑顔を見せました。
「彼に頼まれたんだ。きみに会えてよかった」
そういって、しろくまの姿はだんだんちいさくなり少女からはなれていきました。
追いかけようとしましたがオルゴールの音がやむと体が重くなっていきました。
そして少女はまた深い眠りにおちていきました。
朝日とともに目覚めた少女はしろくまを探しました。
けれどしろうまとはもう二度と会えないことはわかっていました。
しろくまはずっと歳のはなれた初恋の人にあげたぬいぐるみでした。
その人は未知の雪と氷の世界を求めて南極に冒険にいきました。
けれど旅の途中でぶあつい氷に行く手をはばまれ命を落とし、帰ってこなかったのです。
身体も荷物も、おまもりがわりに連れていったしろくまのぬいぐるみも、いまだに見つからないままでした。
「しろくまさん、愛するあの人は氷の国で永遠に眠っているのね。
だからあなたがかわりにあそびに来てくれたのね」
少女は初恋の人が帰ってきたらまっしろなドレスを着てダンスをおどる約束をしていました。
昨夜の冷たくひんやりしたしろくまの手を思い出しながら、少女は水晶のかけらのような涙をひとつぶ流しました。