永久の花

永遠の花



永遠の命をもつ花を知っていますか

その花の蜜を飲んだものは

永久に美しいままでいられるという





誰も住んでいない
あれはてた古城の庭園で

いま咲いたばかりの 紅い薔薇の花に

みごとな虹色の羽をもつ

旅の蝶がふわりととまった


蝶はたいへんつかれていた

蝶の女王の命により

数千年ものあいだ

いちどたりとも枯れることなく
いちまいの花びらもおとすことなく

かわらぬ美しいままの容貌で

咲き続けているという

永遠の命をもつ花を探すまで

虹色の蝶はどこまでも 
海を 平原を 砂漠をこえて
旅をしなければならない


たがいのことを語るうち

蝶は薔薇を愛していた

薔薇も蝶を愛していた

つかれきった身体とのどをうるおしてと

あまい蜜を蝶にのませた


蝶はどの花の蜜より
この薔薇の蜜がいとしいと伝えた

つかれをいやし
やわらかにひらりと舞う

風でいたんだ蝶の羽にふれたくて

抱きしめたくて

けれど薔薇はとげのある姿ゆえに

それはかなわなかった


出逢ったその夜
蝶はなめらかな薔薇の花弁の上で

幸せなきもちにくるまれ 眠った


あさひとともに薔薇は目覚め


蝶を起こさないよう
ちいさな嘆きの声をあげた

なぜならまた蝶は旅立つさだめ

きっと もうここへ戻ってくることはない


別れのとき薔薇はささやいた

蝶よ

あなたの虹色の光を放つ
その羽のなんと素晴らしいことか

旅するあなたの無事を祈り

わたしのことを愛してくれたあかしに

あなたの美しさをたたえつづけよう

ここに命ある限り

わたしはきっと忘れない


誇り高き使命をもった蝶に
わたしの蜜を献上できたことを


愛する薔薇の花にとまり

かろやかなキスをした蝶に

別れがつらくて 血の涙がながれ

さらに紅く染まった花びらのたむけをし

薔薇はしずかに みおくった


別れとともにはじまった

散ることのない薔薇と蝶の絆

それからというもの
たえることなく

薔薇はその身が枯れつきるまで

古城で詩をつづった

虹色の蝶のための 賛美のうたを


そのうたこそ

とこしえに変わらず美しきもの

まさに蝶の女王が求めていた

永遠の命を授かった花だろう



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